額面ではなく「税金・社会保険料引き後の実際の手取り額」で計算する年金損益分岐点シミュレーター。何歳まで生きれば繰下げが得になるかを1円単位で徹底比較!
今回は、老後の人生を左右する究極の選択、「年金は60歳、65歳、70歳のいつから受け取るのが一番得なのか」を、額面ではなく1円単位のリアルな手取り額で完全比較します。
よくテレビや雑誌では「70歳まで繰り下げれば年金が42%も増えて、81歳11ヶ月で元が取れる」と宣伝されていますよね。しかし、その計算をそのまま信じて70歳まで我慢すると、税金や社会保険料の激増、さらには約204万円の加給年金消滅という残酷な罠に直撃します。
年金受給を控えた方の間では、常に2つの極端な意見がぶつかり合っています。「いつ寿命が来るか分からないから、24%減ってでも60歳から1秒でも早く貰い始めた方が勝ちだ」という繰上げ派と、「人生100年時代だから70歳まで待って42%増やさないと老後破産する」という繰下げ派です。
はっきり言いますが、国が「70歳や75歳まで繰り下げるとこんなに増えますよ」と一生懸命アピールしているのは、なるべく年金の支給開始を遅らせて、税金と社会保険料をたっぷり回収したいからですからね。パンフレットの表面上のパーセントだけを信じるのは、カモがネギを背負って役所に行くようなものです。
一方で、安易に60歳から繰り上げ受給するのも危険な落とし穴があります。一度繰り上げると一生涯24%減額されたまま元には戻せませんし、万が一60代前半で病気やケガをした際、より金額の大きい「障害年金」を請求する権利まで失ってしまうからです。
そこで今回は、元会社員の標準的なモデルとして「65歳時点の年金が額面で月18万円、年額216万円」の方を基準に、60歳繰上げ、65歳通常、70歳繰下げの3つのコースで、税金と社会保険料を引いた実際の手取りがいくらになり、何歳で損益分岐点を迎えるのかを徹底検証していきましょう。
| 受給開始コース(65歳基準額面:月18万円) | 額面の増減率 | 税・社保引き後の「実質手取り増減率」 | 65歳通常受給を抜く損益分岐年齢 |
|---|---|---|---|
| 60歳 繰上げ受給コース | ▲24.0%(月13.6万円) | 約 ▲22.3%(月11.8万円)※非課税恩恵大 | 79歳4ヶ月まで累計手取りトップ |
| 65歳 通常受給コース(王道) | ±0%(月18.0万円) | 基準(手取り月15.2万円)+加給年金受給可 | 79歳〜85歳まで累計手取りトップ |
| 70歳 繰下げ受給コース | +42.0%(月25.5万円) | 約 +36.1%(手取り月20.7万円)※税・介護負担増 | 83歳10ヶ月(加給年金対象なら86歳10ヶ月) |
まずは1つ目、「60歳繰上げ受給コース」の月額手取りから見ていきます。65歳より5年早く受け取るため、1ヶ月あたり0.4%、60ヶ月で合計24%が減額されます。その結果、月18万円だった額面は、月13万6,800円、年額で164万1,600円に下がります。
ここで注目すべきは税金と社会保険料です。年金の額面が年164万円と低いため、公的年金等控除の恩恵を大きく受けられ、所得税・住民税・国民健康保険料・介護保険料の天引きは月約1万8,800円で済みます。つまり、実際の手取りは「月11万8,000円、年額141万6,000円」となります。
続いて2つ目、基本となる「65歳通常受給コース」です。額面は月18万円、年額216万円です。ここから所得税、住民税、国民健康保険料、介護保険料として毎月約2万8,000円、年間で約33万6,000円が天引きされます。その結果、実際の手取りは「月15万2,000円、年額182万4,000円」になります。
そして3つ目、多くの方が期待している「70歳繰下げ受給コース」です。65歳から5年間、60ヶ月我慢することで、1ヶ月あたり0.7%、合計42%が増額されます。額面は月18万円から「月25万5,600円、年額306万7,200円」へと大きく跳ね上がります。
ところが、年金収入が年306万円を超えると、日本の累進課税と社会保険料の仕組みが容赦なく牙をむきます。所得税、住民税、国民健康保険料、介護保険料が雪だるま式に増え、毎月約4万8,600円、年間でなんと約58万3,200円も天引きされてしまうのです。
3つのコースの「毎月手取り額」と「実質増減率」を並べて比較してみましょう。65歳通常の手取り月15万2,000円を基準にすると、60歳繰上げは額面マイナス24%に対して手取りは月11万8,000円で「マイナス22.4%」に緩和されます。逆に70歳繰下げは、額面プラス42%のはずが手取りは月20万7,000円で「プラス36.2%」に縮んでしまうのです。
しかし、70歳繰下げの本当の恐怖は税金や保険料だけではありません。年下の配偶者がいる世帯にとって致命的な大損失となるのが、「加給年金の完全消滅」です。これを知らずに老齢厚生年金を繰り下げてしまい、後から窓口で泣き崩れる方が後を絶ちません。
加給年金とは、厚生年金に20年以上加入した方が65歳になった際、生計を維持している65歳未満の配偶者がいる場合に支給される「年金の家族手当」です。金額は年間約40万8,000円、しかも非課税です。もし妻が5歳年下なら、妻が65歳になるまでの5年間で合計約204万円がまるごと受け取れます。
ところが、「70歳まで繰り下げて42%増やそう」と老齢厚生年金の受け取りを止めてしまうと、待機している5年間の加給年金204万円は、後からまとめて貰うことも増額されることもなく、文字通り「空気中に蒸発」してゼロになります。204万円の非課税手当をドブに捨ててまで繰下げするなんて、どんな罰ゲームですかって話ですよね。
さらに第3の罠として見逃せないのが、「医療費と介護サービス費の自己負担割合の跳ね上がり」です。75歳以上の後期高齢者医療制度や介護保険では、年金の額面収入が一定基準を超えると、窓口での自己負担が「1割負担」から「2割負担」、つまり実質2倍に跳ね上がります。
今回のモデルケースでは、65歳受給なら額面216万円なので介護保険は1割負担で収まりますが、70歳まで繰り下げて額面が306万7,200円になると、280万円の壁を突破し、病院代も介護サービス費用も窓口負担が1割から2割へと倍増してしまいます。病気が増える70代後半以降に医療費と介護費が2倍になるダメージは計り知れません。
では、これら税金や社会保険料をすべて差し引いた「実際の手取り額」で、70歳、75歳、80歳、85歳時点の累計受給額がどう推移するのか、並走レースで見ていきましょう。まずは「70歳時点」の累計手取り総額です。
70歳時点では、60歳から月11万8,000円を10年間受け取ってきた「60歳繰上げコース」が累計1,416万円でトップを独走しています。65歳通常コースは5年間で912万円、加給年金がある夫婦なら1,116万円です。一方、70歳繰下げコースはここまで1円も年金を受け取っておらず、0円からのスタートとなります。
続いて、日本人の健康寿命の節目となる「75歳時点」を見てみましょう。60歳繰上げコースは15年間で累計2,124万円。65歳通常コースは10年間で1,824万円まで追い上げますが、まだ60歳繰上げが300万円リードしています。そして70歳繰下げコースは5年間で1,242万円と、75歳時点でもまだ65歳通常に582万円も負けています。
ここで一度立ち止まって考えていただきたいのが、「健康寿命」という厳然たる事実です。厚生労働省のデータでは、介護を受けずに自立して元気に旅行や趣味を楽しめる健康寿命は、男性で約72歳、女性で約75歳です。つまり75歳の時点で、70歳繰下げコースの方はまだ600万円近くも取り戻せていないのです。
では、さらに時間を進めて、日本人男性の平均寿命に近い「80歳時点」の累計手取り総額を見てみましょう。60歳繰上げコースは20年間で2,832万円。65歳通常コースは15年間で2,736万円と、残り96万円差まで肉薄します。そして加給年金204万円を受け取った夫婦世帯なら、すでに76歳4ヶ月時点で65歳通常コースが逆転トップに立っています。
ここで衝撃の事実が浮かび上がります。70歳繰下げコースは、80歳になった時点でも累計手取りは2,484万円であり、65歳通常コースの2,736万円にまだ252万円も負けているのです。よく言われる「81歳11ヶ月で元が取れる」というのは、税金や社会保険料を1円も計算に入れていない額面上の幻想に過ぎません。
では、70歳繰下げコースがいよいよ逆転する「85歳時点」を見てみましょう。85歳になると、60歳繰上げが3,540万円、65歳通常が3,648万円、そして70歳繰下げが3,726万円となり、単身世帯では「83歳9ヶ月」でようやく70歳繰下げが65歳通常を追い抜きます。
しかも、もし5歳年下の配偶者がいて加給年金204万円の対象だった場合、85歳時点でも65歳通常コースが累計3,852万円となり、70歳繰下げの3,726万円を上回っています。加給年金の消滅分まで取り戻すには、なんと「86歳10ヶ月」まで生き続けなければ元が取れないという計算になるのです。
86歳10ヶ月でようやくトントンになって、そこから毎月5万5,000円ずつプラスになると言われても、87歳から急にハワイ旅行に行ったり高級ステーキを食べ歩いたりするわけじゃないですからね。元気な60代後半の5年間を我慢して、87歳以降の通帳残高を増やすのは、人生のタイムパフォーマンスとして最悪の選択になりかねません。
では、私たちは一体どの受け取り方を選べば、税金や社会保険料で損をせず、かつ長生きリスクにも備えられるのでしょうか。ここからは、誰も教えてくれない最も賢い「年金の受け取り方と新NISAを組み合わせた3つの黄金処方箋」を具体的に解説します。
まず黄金処方箋の1つ目は、「基本は65歳通常受給をベースにし、もし繰り下げるなら基礎年金と厚生年金を別々に動かす『片方繰下げ』を使うこと」です。実は日本の年金制度は、1階部分の「老齢基礎年金」と2階部分の「老齢厚生年金」を、それぞれ別々の時期に受け取ることができます。
年下の配偶者がいる方は、2階部分の「老齢厚生年金(月11万2,000円)」を必ず65歳から受け取ってください。そうすれば、非課税の加給年金である年40万8,000円、5年間で204万円を1円も漏らさず満額受け取ることができます。そして余裕があれば、1階部分の「老齢基礎年金(月6万8,000円)」だけを68歳や70歳まで繰り下げるのです。
この「片方繰下げ」を行えば、加給年金204万円をまるごと獲得しながら、70歳以降の年金額面を年244万円程度に抑えられるため、医療費や介護費が2倍になる「280万円の壁」も見事に回避できます。税金と社会保険料の急増を防ぎつつ、一生涯の手取りを最大化する極めて合理的なテクニックです。
続いて黄金処方箋の2つ目は、「60歳から65歳までの収入減は、年金の60歳繰上げではなく『新NISAの取り崩し』でつなぐ架け橋戦略」です。定年再雇用で給料が下がったからといって、安易に60歳で年金を繰り上げてしまうと、一生涯24%減額されるペナルティを背負ってしまいます。
もし40代・50代のうちから新NISAでオルカンやS&P500を積み立てておき、60歳から65歳までの5年間だけ、毎月5万円、5年間で合計300万円を新NISAから非課税で取り崩せば、年金を1円も減額させずに65歳までつなぐことができます。65歳以降は一生涯、満額の手取り月15万2,000円を受け取れるため、80代・90代になっても安心感がまったく違います。
そして黄金処方箋の3つ目、これこそが最強の結論ですが、「年金を70歳まで繰り下げて月5万5,000円増やすのではなく、65歳で年金を受け取りながら『新NISAから毎月5万円を非課税で取り崩す』ハイブリッド戦略」です。なぜなら、新NISAの売却益や取り崩し資金は、いくら引き出しても「完全非課税」であり、社会保険料の計算にも一切含まれないからです。
具体的に計算してみましょう。65歳時点で新NISA口座に1,500万円の資産があれば、年利5%で運用しながら毎年4%、つまり年間60万円、毎月5万円を取り崩しても、資産は30年以上枯渇しません。65歳からの年金手取り月15万2,000円に、新NISAからの非課税取り崩し月5万円を足せば、65歳の初日から「毎月20万2,000円」の手取りが完成します。
驚くべきことに、この「65歳受給+新NISA月5万円取り崩し」なら、70歳まで5年間我慢することなく65歳から毎月20万2,000円を使える上に、税金や国民健康保険料は1円も上がらず、加給年金204万円もしっかり受け取れ、さらに医療費や介護費も1割負担のまま維持できるのです。まさにすべてのいいとこ取りをした究極の出口戦略です。
ちなみに、「65歳時点で新NISAに1,500万円を作るにはどうすればいいの?」という方も安心してください。45歳から65歳までの20年間、新NISAでオルカンやS&P500に毎月3万7,000円を積み立てれば、元本888万円に対して年利5%の複利効果で65歳時点で約1,520万円に到達します。50歳から始める場合でも、毎月5万6,000円の積立で15年後に約1,500万円が作れます。
また、すでに60代で退職金を受け取った方や預貯金がある方も、銀行窓口の毎月分配型投信や外貨建て保険には絶対に手を出さず、生活防衛資金として現預金をしっかり残した上で、余剰資金を新NISAの成長投資枠や積立枠でインデックス運用に回すことで、インフレに負けない非課税の自分年金を作ることができます。
ちなみに、公的年金の繰下げにはもう1つ見落とされがちな弱点があります。それは「自分が亡くなったら、その時点で増額された年金も消えてしまう」という点です。一方、新NISAで運用しながら取り崩す自分年金なら、万が一早く亡くなったとしても、残った1,500万円の金融資産はそのまま1円も無駄にならずに家族へ引き継ぐことができます。
ここまでの結論として、タイプ別の最適解を整理しましょう。まず年下の配偶者がいる方や健康なうちに人生を楽しみたい方は「65歳通常受給+新NISAの非課税取り崩し」が圧倒的ナンバーワンです。そして単身で長生き家系、かつ70歳まで働いて十分な給与がある方に限り、「老齢基礎年金だけを68歳〜70歳へ片方繰下げ」するのが最も賢い選択となります。
それでは本記事のまとめです。年金は額面の「マイナス24%」や「プラス42%」という表面上の数字だけで判断すると、税金・社会保険料の激増や、配偶者の加給年金204万円の消滅、さらに医療・介護費の2倍化という見えない罠にはまってしまいます。
だからこそ、公的年金は65歳から賢く受け取って加給年金と1割負担の権利を守り抜き、上乗せのゆとり資金は税金も社会保険料も一切かからない「新NISAの非課税取り崩し」で作る。このハイブリッド戦略こそが、国に余計な税金を取られず、元気なうちにお金を使い切れる最高の処方箋です。
ぜひ一度、ご自身の「ねんきん定期便」でおおよその基準額を確認し、配偶者との年齢差や現在の新NISAの積立状況と照らし合わせてみてください。制度のルールを正しく知るだけで、老後の手取り額は数百万円単位で大きく変わってきます。